株式会社 横浜マイクロシステム

完成工事図面のデジタルファイリングの実際

神奈川県内広域水道企業団の設立

 神奈川県は首都東京に隣接し、昭和40年代に入ると人口の増加、生活文化の向上及び経済の発展は著しく、これらの社会情勢に伴い県内の水道用水の需要は年々増加の一途をたどり、既存の主要水源である相模川水系だけではその需要に対処できなくなった。そこで、新たな水源として県の西部を流れる酒匂川の開発を行う必要が生じ、神奈川県、横浜市、川崎市及び横須賀市の4団体で協議した結果、①水道用水の広域的有効利用を図る②重複投資を避ける③効率的な施設の配置及び管理を図る④補助金の導入を図るなどの見地から、その経営主体を企業団方式によることとし、広域水道としての用水供給事業を行うため、昭和44年5月に自治大臣の許可により設立された。

事業の概要創設事業

  創設事業は、酒匂川の支川河内川上流山北町神尾田地先に三保ダムを築造し、下流の小田原市飯泉地点に取水施設を設けて原水を取水し、3つの浄水場で浄水したのち、神奈川県、横浜市、川崎市及び横須賀市の4つの構成団体に1日最大1,454,800角の水道用水を供給することを目的としたもので、昭和44年度から昭和53年度までの10ヶ年をかけ、ダム、取水堰、導水トンネル、浄水場、送水管などの建設を行った(総事業費約2,891億円)。この事業の完成により、酒匂川水系は昭和54年4月から全量給水体制となっている。
相模川水系建設事業
 相模川水系建設事業は、創設事業の完成後も人口の増加や生活水準の向上などに伴って、県内の水需要は、今後とも増加するものと想定されたことから計画されたもので、相模川の支川中津川に建設省(現国土交通省)が建設する宮ヶ瀬ダムに水源を求め、海老名市社家地点に取水施設を建設することなどにより、新たに1日最大1,209,000角の水道用水を供給しようとするものである。
 

これまでの完成工事図面管理上の問題点とデジタル化への対応

 社会環境も情報化の急激な進展から官民を問わず、その活動内容の情報化とその管理活用、開示が重要な課題となってきている。特に、官における電子政府の実現、情報公開法の成立など、その動きは加速化している。
 近年の情報基礎技術の進歩は目覚ましく、コンピュータ関連技術の高速化、高密度化、高速通信インフラ整備、ディスク及びメモリの大容量化、スキャナー技術の高性能化など枚挙にいとまがない。ソフト面でも文字認識、全文検索、編集加工ソフトから業務作業手順に沿って仕事を進めるワークフローソフトの導入など着実に進化している。
 このような進化した情報技術は、導入ローコスト化と共に、これまでの蓄積されたアナログ情報を簡単にネットワークに乗せ、検索データベースとリンクされ、瞬時にイメージ情報が検索、表示、印刷、編集、追加、削除でき、さらに異なるイメージ形式をも一元管理できる時代を迎えることになった。つまり、長期保存性に優れた特色を持つマイクロフィルムとデジタルメディアの相互変換及び共存できる環境が大きく業務改善を変えようとしている。さらに、ありがたいことに高価なマイクロフィルム・リーダープリンタのような専用機から汎用性の高い機器が活用環境をサポートできるようになった。
  創設事業とこれまでの相模川水系建設事業において発生した工事図面のアパーチュアカードは約3万枚。1工事完成ごとに企業団作成仕様によりアパーチュアカードが作成されキャビネットに集積されるるが、カードの中には本来記載すべき分類整理番号などはカード上に印字されずに、また検索台帳も発生都度に追加できていない。1996年に集積されたカードと検索台帳を整備したが、その後発生した図面情報は未整備のままであった。つまり工事完成図面情報のアパーチュアカードはあっても必要な図面が瞬時に検索抽出できるデータベースは存在していない、という中途半端な、しかも一部の職員しか利用できない環境であった。
 阪神淡路大震災から既に久しいが、あの当時のライフラインの復旧対策は、危機管理体制強化への警鐘を鳴らした。神奈川県民へ安定した水供給事業を展開している企業団にとって、危機管理を視野にいれた施策は2006年完成をめざすプロセスの中で維持管理の充実と併せて考えなければならない。その視点から工事完成図面のデジタル化と浄水場を結ぶネットワーク化構想が持ち上がった。
 工事リスト

求められるイメージデータ管理と検索のコンセプト

 デジタルファイリングシステムにおいて、一般的にイメージファイルに属性情報を設定する方法がある。つまりファイル管理機能の基本となるインデックス機能はファイルとは別にデータベース上でインデックスを作成し、このインデックス・レコードとファイルを対応させることでファイル管理を行う。さらにひとつのファイルに対して複数のインデックス・データベースを簡単に作成できなければならない。
 ファイル検索は検索画面でインデックスの内容を指定して行うだけでなく、あいまい検索、グループ検索機能が求められる。検索結果は一覧表示され、その中からファイルを選択すると瞬時に表示されなければならない。問題はこの検索と表示機能のレスポンスであり、かつ見やすい、親しみやすい検索画面と操作性の高い機能がどれだけ考慮されているかで運用上継続可能なデジタルファイリングシステムの世界が構築できる。
 企業団の提示したファイル検索の要求は、施設別と神奈川県内8分割図面に表示されている導水及び送水路線上の各工区から工事名称と図面一覧を表示しさらに続けて要求図面が瞬時に検索できることである。例えば、ある地点の「送水管図面」を検索したい場合、送水路線地図からその地点を特定しなければならない。工区にリンクボタンを貼り、工事名と図面名称の属性データ検索システムが作業上短時間にできるファイリングソフトとして、しかも前述した編集機能やレスポンス機能面からKIP製「K-FILE」を選んだ。
 アパーチュアカード3万枚をデジタル化で保管されると仮定すると、検索データベースとイメージ容量を含めサーバークライアント方式で20GBは必要になる。レスポンスの高い検索と表示機能を確保するとなれば1アパーチュアカードごとにインデックス・レコードの作成と路線地図に約200ケ所の工区にリンクボタン作成を行った。  

地図

デジタルファイリングソフト「K-FILE」に求めた条件

*3万件のデータをハードディスクから2~3秒以内に検索可能であること。
*データ形式は将来システム変更にスムーズに移行できる汎用性の高い形式、即ち検索データはCSV、イメージデータはTiffであること。
*オリジナルな活用しやすい検索画面(別図の画面事例参照)と面倒な入力作業をせずに該当データを検索できること。
*検索結果とその該当イメージが同一の画面に表示(クイックビュアー機能)できること。
*画面に表示された地図上の地点からクリックひとつで検索できること。
*安定した、かつコストパフォーマンスの高いハードシステム環境を構築できること。
*将来、工事完成図のCADデータの提出も視野にいれ、CADデータ(DWG、DXF、HPGLなど)のファイルフォーマットにも対応できること。
*表示された図面の色塗り、注釈、面積計算に対応できること。
*初期投資額も少なく、システム導入のリスクを抑えられ、小さく立ち上げてから規模が拡大できるボトムアップ型のコンセプトを有すること。
 以上の条件をクリアできる機能を持つ K-FILE をベースに完成工事図面情報システムを構築した。

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おわりに

 今後、工事終了後に発生する図面はアパーチュアカード(バックアップ用)とデジタルイメージの2つの記録媒体で管理活用され、安定した水供給の維持管理と危機管理に貢献されていくだろう。
 デジタル化への期待は官民問わず急速に増えている。それだけデジタル化のもたらす効果が多いと予測し、期待している現われである。導入後、日常業務の上で利用し続けると、さらにデジタル環境への期待が膨らみ、修正変更、バージョンアップが必ず生ずるものである。思った効果が現れずに、また一部の者しか利用できないものでは組織内にアピールもできない。だから拡張性のあるデジタルシステムを求める理由がそこにある。言い換えると、バックアップ体制とデジタル情報の維持管理費を導入当初から考慮しなければならないと意識している組織のデジタル化は間違いなく継続成功する筈である。
 今回ご紹介した神奈川県広域水道企業団の完成工事図面のデジタル化の目的は、最終的にはライフラインの維持管理の充実である。長期に亘る管理活用の情報はデジタル化だけでは不十分であり、マイクロフィルムの長期保管の特性はデジタル化情報を十分サポートすることだろう。